VERSION GUIDE 22
ジョン・レノン「イマジン」
通常版・Ultimate Mix・
Raw Studio Mixは
何が違う?
歌い出しへ導くピアノ、ジョンの声、その後ろを支える弦楽器。「イマジン」を別の収録盤で聴くとき、変わったのは音の仕上げ方でしょうか。それとも演奏そのものでしょうか。
入口は、通常のアルバム収録、2018年のUltimate Mix、Take 10のRaw Studio Mixの3つ。さらに2020年のミックスとTake 1を加えると、「同じ曲」「同じ演奏」「同じミックス」を分けて考えやすくなります。
1971年の作品と、2010年のリマスターを分ける
アルバム『Imagine』は1971年の作品です。自宅のAscot Sound Studiosでの基礎録音に、ニューヨークでの追加録音を重ねて制作されました。2010年には、オリジナルのアナログテープからソロ作品群をリマスターしたことが公式に説明されています。公式アルバム解説/2010年リマスターについて
今回の基準曲は、Apple Musicの『Imagine』にある、版名表記のない「Imagine」です。約3分7秒、ISRCはGBAYE1000769。今回確認した「2010 Digital Remaster」表記の別収録とISRCが一致し、収録アルバムの権利表記も℗ 2010となっています。
このため2010年リマスター系の収録と対応づける手掛かりはありますが、ISRCや権利年だけで配信ファイルのマスターが完全に同じとは確定できません。本記事では「通常収録」と呼び、1971年の初版盤そのものと同一だとは扱いません。
曲の発売日には1971年が表示されても、現在聴ける音源をその年にデジタル化したという意味ではありません。作品の発売年と、リマスターや再ミックスが行われた年を分けることが、版を選ぶ最初の手掛かりです。
Ultimate Mixは2018年と2020年で分けて選ぶ
2018年の『Imagine – The Ultimate Collection』では、ヨーコ・オノの監修のもと、ポール・ヒックスが元のマルチトラックからミックスを作り直しました。オリジナルを尊重しながらジョンの声を明瞭にする方針で、弦楽器もステレオ/サラウンドへ広げたと説明されています。制作担当者による解説
これは完成した音源の音量や音色を整えるリマスターより前の工程へ戻る作業です。声、ピアノ、弦楽器をどう配置し、どのくらいの大きさで聴かせるかを比べる入口になります。
一方、2020年の『Gimme Some Truth. The Ultimate Mixes』はショーン・オノ・レノンがプロデュースした別の企画です。こちらも元のマルチトラックから新たにミックスし、アナログ機材による最終処理とマスタリングを行ったと公式に説明されています。2020年盤の制作案内
今回の日本カタログでは、2018年版が約3分6秒、2020年版が約3分2秒で、ISRCも異なりました。「Ultimate」という言葉だけで同じ版とまとめず、収録盤名まで確認しましょう。約4秒の差がどの編集や余白に由来するかは、長さの情報だけでは分かりません。
Raw Studio Mixで仕上げ前の姿へ、Take 1で別の演奏へ
Raw Studio Mixはロブ・スティーヴンスによるミックスです。公式解説では、後から加えたストリングスなどを外し、声や楽器のリバーブ、テープ・ディレイを使わず、演奏時の音や会話も残す方針とされています。完成後の音源に単純な「残響除去」をかけたものとは異なります。Raw Studio Mixesの制作説明
「イマジン」にはTake 10とTake 1のRaw Studio Mixがあります。ここではTake 10を主な比較対象とし、Ultimate Mixから切り替えて、弦楽器の有無、声の周囲の響き、歌へ入る前後の間に注目します。スタジオでの演奏を伝える企画であり、観客のいるコンサートのライブ盤ではありません。
補足に選んだ「Take 1」は別テイクです。公式クレジットでは、ジョンの歌とピアノに加え、ニッキー・ホプキンスのピアノ、ジョン・バーハムのハーモニウム、ジョン・タウトのヴィブラフォンなどが記載されています。Universal MusicのTake 1クレジット
Take 1の通常ミックスとRaw Studio Mixも別々に配信されています。「Take 1」という同じ演奏の名前があっても、ミックスや収録範囲まで同じとは限りません。下の2曲は約18.5秒の長さの差があり、ISRCも異なります。差の全体を会話や余白だとは断定せず、冒頭と曲末も含めて確認する組み合わせです。
Apple Music日本版で確認した6つの収録
カタログ確認日:2026年9月17日。長さはAPIのミリ秒値を秒単位へ四捨五入しています。リンクは比較に選んだ曲そのものを開きます。
| 比較する版/曲リンク | 収録盤 | 長さ/ISRC | 比べる理由 |
|---|---|---|---|
| 通常収録 | Imagine | 3:07 GBAYE1000769 | 比較の基準。2010 Digital Remaster表記の別収録と同じISRC |
| 2018 Ultimate Mix | Imagine (The Ultimate Collection) | 3:06 GBUM71803835 | 声と楽器の配置・バランスを作り直した版 |
| Take 10 / Raw Studio Mix | Imagine (The Raw Studio Mixes) | 3:12 GBUM71804049 | 追加録音や音響処理前の演奏を聴くミックス |
| 2020 Ultimate Mix | Gimme Some Truth: The Ultimate Mixes (Deluxe Edition) | 3:02 GBUM72004331 | 2018年版とは別企画の再ミックス |
| Take 1 | Imagine (The Ultimate Collection) | 3:06 GBUM71804047 | 完成版と異なるテイク。長さだけでは区別できない |
| Take 1 / Raw Studio Mix | Imagine (The Raw Studio Mixes) | 3:25 GBUM71804048 | Take 1のミックス・収録範囲を比較する補足 |
通常収録とTake 1の長さの差は、ミリ秒値ではわずか約0.5秒です。それでも別テイクだと資料で確認できます。逆にRaw Studio Mixとの尺差だけを見て、新しく演奏し直した録音とは判断できません。再生時間は候補を探す手掛かりで、制作工程の証明ではないという例です。
Raw Studio Mixの今回の収録盤には℗ 2023とありますが、Raw Studio Mixesという企画自体は2018年の公式資料に掲載されています。収録盤の権利年をそのまま録音年や新ミックス年と読み替えないようにしましょう。
最初は3つの版を、同じ再生条件で
- 通常収録 → 2018 Ultimate Mix:同じ区間へ戻り、声とピアノの距離感、弦楽器が左右のどこに聴こえるかを確認します。
- 2018 Ultimate Mix → Take 10 / Raw Studio Mix:弦楽器の有無と声の響きに注目。曲が始まる前と終わった後も聴くと、完成したレコードとスタジオ演奏の見せ方を比べられます。
- 余裕があれば2020年版とTake 1へ:2018年版とのミックス比較、Take 1との演奏比較を一組ずつ行います。Take 1の通常/Raw同士も補足の比較になります。
ステレオのミックスを比較するときは、Apple MusicのDolby Atmosをオフにし、対応機器の「ステレオを空間化」やヘッドトラッキングもオフにして、同じ出力機器・EQ設定で聴きます。音量が大きい方を良く感じやすいため、聴感上の音量も近づけると違いを追いやすくなります。Apple公式のDolby Atmos設定案内
今回、通常収録にもカタログ上のDolby Atmos対応情報がありました。対応情報は、いま再生している音がステレオかAtmosかを示すものではありません。通常収録を「1971年のミックス」、Atmosを「2010年のマスター」と一括りにせず、再生中の形式を確認してください。
聴き比べの観点は制作資料から提案したものです。この記事の制作ではフル再生による聴感評価、配信ファイルの波形照合、編集位置の特定は行っていません。短いプレビューだけでは冒頭や曲末を比べられない場合があります。
キキナオシでは、2018年・2020年のUltimate MixとTake 10のRaw Studio Mixをリミックスとして、Take 1を別テイクとして区別します。低信頼度は同じ版とは確認できないという意味です。比較する価値が低いという意味ではありません。