VERSION GUIDE 53
ビートルズ「The Long and Winding Road」
アルバム版・Naked・2021 Mixは何が違う?
『Let It Be... Naked』なら、あのオーケストラがない「The Long and Winding Road」が聴ける。けれど、この曲では伴奏の足し引きだけでなく、土台となるバンドの演奏そのものも変わっています。
まずは『Let It Be』のアルバム版、Naked版、2021 Mixの3つへ。演奏を選び直すことと、同じアルバムを新しくミックスすることを分けると、同じ曲名が並ぶ理由が分かります。
最初に押さえたい、3つの版の関係
- アルバム版:1969年の演奏に、フィル・スペクターの制作でオーケストラなどを加えた1970年の仕上がり。現在の2009リマスターは、このアルバム版を選ぶ入口です。
- Naked版:2003年発表。アルバム版とは別の日に録音した演奏を採用しています。オーケストラを取り除いた同じ演奏、という関係ではありません。
- 2021 Mix:1970年のアルバム版を手本に、ジャイルズ・マーティンとサム・オケルが作った新しいミックス。Naked版への置き換えではありません。
公式の2021年特別版の発表は、スペクターによる本曲への管弦楽の追加と、新ミックスが元のアルバム版を指針としていることを説明しています。録音・ミックス・リマスターの年を、それぞれ分けて読みましょう。
Nakedは、5日後の別の演奏を選んだ
Nakedを担当したアラン・ラウズ、ポール・ヒックスらへのMix誌の制作取材(2004年)によると、この曲は元のアルバムで使われた演奏から、1969年1月31日の演奏へ丸ごと変更されています。スペクターが使ったのは、その5日前の録音でした。
したがって、聴き比べでは弦の有無に加え、ポールの歌の間合いやピアノ、バンドの応答にも注目できます。同じ瞬間の演奏に別の伴奏を重ねた比較とは、出発点が違います。
公式のNaked紹介は、ライブ演奏へ立ち返る作品として位置づけ、発売日を2003年11月17日としています。ただし、その理念から「編集も処理もしていない」とは言えません。演奏を選び、ミックスして作ったアルバムです。
今回の日本カタログではNaked版の曲名に版名が付かず、単に「The Long and Winding Road」と表示されます。曲名だけで判断せず、収録先が『Let It Be... Naked』であることも確かめてください。
Apple Musicで選ぶ、代表7収録
上の3つが基本の比較です。そのあとに、別テイクや発表前のミックス、ほかの収録盤へ広げられます。版名のリンクから曲ページを開けます。
| 比較する版 | 収録先 | 選ぶ目印 | 長さ |
|---|---|---|---|
| アルバム版の2009リマスター | Let It Be | 1970年のアルバム版の系統 | 約3分38秒 |
| Naked版 | Let It Be... Naked | 1月31日の別演奏を採用 | 約3分34秒 |
| 2021 Mix | Let It Be (2021 Mix) | アルバム版に基づく新ミックス | 約3分38秒 |
| Take 19 | Let It Be (2021 Super Deluxe) | 特別版のセッション音源 | 約3分47秒 |
| 1969 Glyn Johns Mix | Let It Be (2021 Super Deluxe) | 1969年のミックスを2021年に発表 | 約3分39秒 |
| Apple Studio - Remastered | Anthology 3 | Anthology 3の2025リマスター | 約3分42秒 |
| 「1」収録 | 1 | 2015年のミックス企画に含まれる盤 | 約3分39秒 |
曲名・収録先・ISRC・時間は2026年10月21日のApple Music日本カタログで確認。時間は秒単位に丸めています。2009年や2025年のリマスターは録音年を意味せず、現在の配信と発売当時のレコードのマスターが完全に一致するという意味でもありません。
Take 19と1969 Glyn Johns Mixは、何を比べる入口?
2021年の特別版には、完成アルバムの新ミックスとは別に、セッション音源と、グリン・ジョンズが1969年にまとめた未発表アルバム『Get Back』のミックスが収録されています。『Get Back』は1969年の制作物ですが、この公式特別版で発表されたのは2021年です。公式の構成説明
公式曲目にも載る「Take 19」は演奏テイクを示す名前、「1969 Glyn Johns Mix」はミックスの担当者と制作年を示す名前です。Naked、Take 19、グリン・ジョンズ版を順に開いても、3つがすべて別の日の演奏になるとは限りません。
今回はNakedが1月31日の別演奏であることを担当者取材で確認しました。一方、配信Take 19とNakedの全編集箇所、グリン・ジョンズ版の素材との細かな対応は、音源ファイルの比較まで行っていません。同じ演奏素材を含むかという話と、完成した配信曲が完全に同一かという話は分けておきます。
「1」とAnthology 3でも、収録盤を確かめる
『1』の曲は今回の日本カタログで版名のない曲名ですが、2015年の公式案内では新しいステレオ・ミックスを制作したと説明されています。表の『1』収録は、アルバムの2009リマスターや2021 Mixと異なるISRCを持っています。ただし、この盤のステレオとDolby Atmosの全制作工程が同じだとまでは確定しません。
『Anthology 3』の「Apple Studio - Remastered」は、さらに別の入口です。公式の2025年版案内は、1990年代のAnthology 1〜3を2025年にリマスターしたと説明しています。2025年の新演奏という意味ではありません。
従来の『Anthology 3』にも「Apple Studio」表記の曲があり、今回取得した両曲の長さはともに221,787ミリ秒でしたが、ISRCは異なります。番号の違いと同じ尺だけで、同じマスターとも、別の演奏とも断定できません。まず表の収録盤と版表記を選び、比較対象を揃えるのが確実です。
数秒差やISRCだけでは、演奏の違いは決まらない
アルバムの2009リマスターは約3分38秒、Nakedは約3分34秒、2021 Mixは約3分38秒です。Nakedとの違いが約4秒しかなくても、担当者の説明では別の演奏。反対に、別盤の2021 Mixは同じISRCで、尺もほぼ同じです。
今回の代表値では2009リマスターがGBAYE0601717、NakedがGBAYE1300009、2021 MixがGBUM72006890。ISRCは録音を識別する手掛かりですが、後から作ったミックスやリマスターとの関係を、それだけで全部説明できる番号ではありません。制作資料と一緒に読む必要があります。
Dolby Atmosも再生形式の情報です。Atmos対応だから別テイク、あるいは最も新しい録音、とは判断しません。ステレオのミックスを比べたいときは、端末側のAtmosや音量調整の設定も揃えてください。
聴き比べは、アルバム版から2方向へ
- 2009リマスター → 2021 Mix:アルバム版をどう仕上げ直したかに注目。声とピアノ、オーケストラの位置や量感を自分で確かめます。
- 2009リマスター → Naked:伴奏の有無に加え、歌い出し、フレーズの終わり、演奏の間合いを追います。別の演奏を選んだ比較です。
- Naked → Take 19 → 1969 Glyn Johns Mix:曲前後の音、演奏の進み方、終わり方を確かめます。秒数の違いだけでテイクを決めつけずに聴いてみましょう。
これらは聴き比べる観点で、実聴取による音質の優劣を示すものではありません。同じ機器・再生形式に揃え、音量感を近づけて往復すると違いを追いやすくなります。
アルバムの2009リマスターを基準に探す →検索の信頼度は、基準曲と同じ録音である確からしさの目安です。演奏の良し悪しではありません。NakedやTake 19を選ぶ際も、版名と収録盤を合わせて確かめてください。
確認した資料と、残る確認範囲
公式の作品紹介・2021年と2015年のリリース案内・Anthologyの2025年版案内、Nakedの制作担当者へのMix誌取材を、現在の日本カタログへ照合しました。出典は各節のリンクから確認できます。Mix誌は閲覧環境によってアクセス制限がかかる場合があります。
各配信曲の編集箇所、CD・映像・アナログ盤とのマスターの完全一致、NakedとTake 19の処理の全内訳は未確認です。フル再生での聴感評価や波形照合は行っていません。配信の収録・版表記・対応形式は変わることがあります。
キキナオシはAppleおよびビートルズの公式サービスではありません。