VERSION GUIDE 28
ビートルズ「Across the Universe」
Past Masters、Let It Be、
Nakedは何が違う?
同じ「2009 Digital Remaster」と表示され、長さもほぼ同じ。それでも『Past Masters』と『Let It Be』の「Across the Universe」は、違う仕上がりの版です。収録盤を替えると、この曲がたどった複数の姿が見えてきます。
まずはこの2枚と『Let It Be... Naked』を比較。そのあとに2021 Mix、グリン・ジョンズの1970年ミックス、Take 2とTake 6を加え、ミックスを変えることと、演奏のテイクを選び直すことの違いをたどります。
最初の発表は、Let It Beより前だった
「Across the Universe」は1968年2月に録音され、1969年12月にチャリティー盤『No One’s Gonna Change Our World』で初めて発表されました。翌1970年5月には、異なる形で『Let It Be』へ収録されています。ビートルズ公式の楽曲紹介
『Past Masters』で聴けるのは、通称Wildlife版の系統です。同作のライナーノーツは、チャリティー盤向けに自然音を添えた版と、フィル・スペクターが元の録音を再加工し、速度を落としてオーケストラと合唱を加えた『Let It Be』版を区別しています。マーク・ルイソンによる解説の転載
つまり、曲を最初から丸ごと録り直した2つの演奏というより、元の録音から異なる音の組み合わせと仕上げへ分かれた関係です。2009年というリマスターの年だけでは、その前にどの版が作られたのかまでは分かりません。
Apple Musicで選ぶ7つの入口
表の版名からApple Musicの曲ページを開けます。最初は上の3つだけでも比較できます。
| 比較する版 | 収録先 | 比較の手掛かり | 長さ |
|---|---|---|---|
| Wildlife版の2009リマスター | Past Masters, Vols. 1 & 2 | 1969年に初登場した版の系統 | 約3分49秒 |
| Let It Be版の2009リマスター | Let It Be | オーケストラと合唱を加えた版 | 約3分48秒 |
| Naked版 | Let It Be... Naked | 録音素材を選び直してミックス | 約3分38秒 |
| 2021 Mix | Let It Be (2021 Mix) | アルバム版の新しいミックス | 約3分48秒 |
| 1970 Glyn Johns Mix | Let It Be (2021 Super Deluxe) | 1970年のミックスを2021年に発表 | 約3分31秒 |
| Take 2 | Anthology 2 | 完成版とは別のテイク | 約3分30秒 |
| Take 6 | The Beatles (White Album) (Super Deluxe Edition) | 2018年記念盤で聴ける別テイク | 約3分53秒 |
曲名・収録先・時間は2026年9月23日のApple Music日本カタログで確認しました。時間は秒単位に丸めた目安です。ここでは現在の配信を入口にしており、発売当時のレコードと同一のマスターであることを保証するものではありません。
『Past Masters』と従来の『Let It Be』では、日本語の曲名も「2009 Digital Remaster」の表記も同じです。一方、Nakedの曲名は単に「Across the Universe」。曲名に版名がなくても、アルバム名まで見れば選び分けられます。
Nakedは、伴奏を整理して組み直したミックス
2003年発売の『Let It Be... Naked』は、バンドの演奏を中心に据えて作品を見直したアルバムです。2003年にビートルズが集まって演奏し直した、という意味ではありません。公式の作品紹介
制作担当者への『Mix』の取材によると、この曲ではジョンの声とギター、ドラム、タンブーラを残してミックスしています。終わりにはテープ・ディレイによるエコーも加えられました。「Naked」という名前でも、加工のない録音をそのまま流したものではありません。制作担当者の説明
『Let It Be』と往復するときは、声を囲む伴奏と、最後に音が消えていく部分を聴いてみましょう。同じ曲の骨格を共有していても、残した音、重ねた音、余韻の作り方は別々の比較点になります。
2021 Mixと1970 Glyn Johns Mixは、年の意味が違う
2021年の『Let It Be』記念盤では、ジャイルズ・マーティンとサム・オケルがアルバムの新しいミックスを制作しました。一方、Super Deluxeにある「1970 Glyn Johns Mix」は、グリン・ジョンズが1970年に作った未発表ミックスを収録したものです。2021年記念盤の公式案内
同じ2021年の発売企画に入っていても、一方は新しく作ったミックス、もう一方は以前に作られていたミックスの公開です。「発売された年」と「ミックスが作られた年」を分けると、版名を読み解きやすくなります。
なお、この1970年ミックスは、Super Deluxeに含まれる1969年の『Get Back』LPミックスとは別のEP部分に収録されています。「グリン・ジョンズ版」という呼び方だけで、すべて1969年のものだと考えないようにしましょう。
2021 Mixを比較するなら、まず従来の『Let It Be』収録版と組み合わせるのがおすすめです。そこからグリン・ジョンズ版へ移ると、同じ録音素材をどうまとめるかという別の制作判断も比較できます。
Take 2とTake 6は、ミックス違いとは分けて聴く
Takeは、録音時の演奏の回を示す番号です。『Anthology 2』にはTake 2、2018年のホワイト・アルバム記念盤にはTake 6が収録されています。同じ完成版の音質だけを変えたものとしてではなく、別テイクの演奏として選びましょう。Anthology公式曲目/2018年記念盤の公式曲目
現行カタログには、「Take 2 - Remastered」という別の掲載もあります。公式はAnthology 1〜3の2025年リマスターを案内しています。これは新しいTake番号が増えたこととは別で、同じTake 2のリマスターを加えて比較する入口です。
Take 2とTake 6では、歌のフレーズとギターの進み方に注目してみてください。テイク番号は演奏の識別であり、「数字が大きいほど良い」という評価でも、「その番号の演奏を無編集で収録した」という保証でもありません。
長さやISRCだけでは、版の違いを説明しきれない
表のWildlife版は約3分49秒、Let It Be版は約3分48秒で、配信上の長さの差は約1秒です。それでも、制作資料は両者の追加音・ミックスの違いを説明しています。長さが近いだけで同じ版と決めることはできません。
日本カタログでは、この2曲のISRCも異なります。一方、従来の『Let It Be』と従来の青盤は同じISRC、2021 Mixと2023年版の青盤の2021 Mixも同じISRCでした。同じ系統の別収録を探す手掛かりにはなりますが、編集やマスター、配信ファイルの完全な一致までは分かりません。
2023年版の青盤に入っていても、曲の表記は「2021 Mix」です。また、Apple Musicのアルバム日付には、後年の拡張盤でも元のアルバムの年が表示される場合があります。収録先の発売年と、その曲の録音・ミックス・リマスターの年は分けて確認しましょう。
聴き比べるなら、この順番で
- Past MastersとLet It Beを選ぶ。 冒頭の効果音、歌を支える伴奏、合唱に注目します。再生時間が近くても、同じ秒数だけで位置を合わせず、対応する歌の箇所を選びます。
- Nakedを加える。 声と楽器の関係、終わりの余韻を比べます。
- 2021 Mix、1970 Glyn Johns Mixへ進む。 アルバム版の新しいミックスと、以前に作られた別ミックスを区別して聴きます。
- Take 2とTake 6を聴く。 音の配置だけでなく、歌い回しや演奏の違いへ注意を移します。
同じ端末・出力機器で、聴感上の音量と音声形式をそろえると比較しやすくなります。まずはステレオ同士で試してください。ここで挙げたのは利用者自身が聴くための観点で、筆者が実再生で確認した聴感の報告ではありません。
キキナオシでは、確認できた収録にWildlife版・Let It Be版・Naked版などの版名を表示しています。異なる版を区別しながら、気になる収録盤へ進んでみてください。